建物内に数多く点在している従業員専用の喫煙所のうち、利用者が一番多く利用する地下の喫煙所を最初に加熱式たばこ専用室へ切り替えた。これは多くの喫煙者にとって驚きだったという。しかしこうした思い切った取り組みも、環境を劇的に改善させたことにより、すぐに受け入れられた。手応えを実感できたことで、次に、3階にある2番目に広い休憩所の喫煙所を加熱式たばこユーザーが快適に使用できる環境へ整えた。
「地下の喫煙所も3階の喫煙所も今までは常に煙が充満していましたが、リニューアル後は空気が見違えるほど変わり、臭気も完全に消えました。それこそ吸わない方でも休憩できるほどです。実際地下のほうには挽きたてコーヒーの自販機を新たに設置するなど、憩いの場としても賑わっていますし、3階のほうはガラス窓があって外が見えます。今どき景色を見ながらたばこが吸える環境など、あまりないのではないでしょうか」(小俣さん)
昨年の段階で喫煙率は3割まで減り、さらに紙巻たばこから加熱式たばこへの切り替えも順調に進んでいる。ホスピタリティを何より大切にする従業員たちが、加熱式たばこを選択し、今では満足を得ながら仕事に取り組めるようになった。
「私が感じる一番の成果は、従業員の意識改革の一助になったということです。弊社はこれまで比較的、喫煙者に対する理解があったため、従業員の多くは自分の職場で吸える場所が減るなどとは考えてもいなかったでしょう。今回の取り組みで時代は変わっているんだということを改めて実感したと思いますし、また自分自身の健康について見直すきっかけにもなったと思います」(小山田さん)
帝国ホテルでは、従業員同士が感謝の気持ちを伝えるための『サンクスカード』を導入している。例えば、「〇〇部署の〇〇さんがこういう協力をしてくれた」といった内容が、部署宛や本人宛に届くという仕組みだ。喫煙環境改善の取り組み後、人事部には数多くの『サンクスカード』が届いた。送り主が喫煙者か非喫煙者かはわからないが、ピンク色のカードには「たばこのにおいが気にならなくなりました」「素晴らしい部屋を作ってくれてありがとう」といった言葉が綴られ、小山田さんと小俣さんも「感謝の言葉をいただいて何よりです。やってよかった」と口を揃える。
今後は、レストランや宴会場で働くサービススタッフが仕事の合間に気軽に立ち寄れるような小規模な加熱式たばこ専用室を増やすことも視野に入れているというが、一方で小俣さんは、「理想的な環境が作れたと自負していますし、そういう意味ではやりきった感もあります」ときっぱり。直近で新たなことに取り組むよりも、この環境をいかに維持していけるかのほうが重要だと語った。
また、ご自身が非喫煙者である小山田さんは、「吸わない人にとって良い環境を維持するのは、当然のこと」と前置きしつつ、「逆に喫煙者にとっても働きやすい環境を提供するのが、我々の役目です。今の状態を維持しつつ、双方にとってより良い環境を考えていきたい」と思いを述べた。吸う人にとっても、吸わない人にとっても、居心地の良い環境を——。帝国ホテルの取り組みは、すべての従業員を幸せにする理想的な事例と言えるだろう。